韓国第3の都市、大邸(テグ)。釜山(プサン)の空港からバスに乗ってわずか1時間で到着する歴史の古い街だ。その割には知名度が低く、日本人観光客を見かけることは少ない。そんな大邸でプライド・パレードが行われている。それも今年で9年目を迎えた。
韓国社会ではここ数年で、性的マイノリティの権利回復について議論が高まりつつある。今年5月に行われた大統領選挙のテレビ討論では、テーマとして「同性婚」が登場したほどだ。
それに危機感を覚えたのか、保守系キリスト教プロテスタント団体を中心としたグループは、性的マイノリティを巡るありとあらゆる動きに激しい反対運動を起こしている。
大邱での2014年のパレードは、度重なる座り込みで、幾度もコース変更を余儀なくされた挙げ句、ゴール地点を占拠されたため、途中でパレードを断念せざるを得なくなった。2015年のパレードでは、参加者と旗に人糞が投げつけられる事件が発生した。
2017年のパレードも例外ではなかった。出発地点となった目抜き通りの東城路には、地元のLGBTサークル、性的少数者親の会、日本から参加した「TOKYO NO HATE」、ソウル駐在の米国大使館などの様々なブースが立ち並んだ。会場周辺では数多くの警察官が警戒にあたりピリピリしたムードが漂っていた。すぐそばの公園で、クリスチャン数百人が大々的なホモフォビア集会を開いていたからだ。参加者の一部はプラカードを手にして、何かに取り憑かれたように東城路を歩いていた。
この時点では、昨年ほどの勢いは見られなかったが、パレードが始まると状況は一変した。
日が傾きだした午後5時過ぎ、約1,000人の参加者は、フロートを先頭に、街に繰り出した。
ヘイトスピーチの監視にやってきた国家人権委員会の担当官と、数百人の機動隊に取り囲まれながら、パレードは進んだ。沿道は「同性愛者はエイズを拡散する」「同性愛者の人権は認めない」などと書かれたプラカードを掲げた反対派で埋め尽くされていた。しかし、性的マイノリティを取り巻く社会的雰囲気が変わったせいか、ところどころでパレードに向かって手を振る人もいた。
沿道を埋め尽くす反対派に混じって、サングラスとマスクで顔を覆い、パレードを見つめる女性がいた。自身もレズビアンだと明かした女性は、パレードに参加したい気持ちはあるが、こんな小さな町では誰に見られてアウティングされるかわからない、怖くてとても参加できないと肩を落とした。大都市とは言え、韓国の中でも保守的なことで知られる大邸で、社会的にカムアウトすることはリスクの高いことなのだろう。
その一方で、変化の兆しも感じた。パレードに参加した女子高生3人組は、親にもカムアウトしていると屈託のない笑顔で語った。「パレードに参加するのは当たり前のこと。だってクィアだから」
リベラルな文在寅(ムン・ジェイン)大統領の誕生を受けて、大邸以外の地方都市でもクィア・パレードの開催が広がっている。2018年5月には全州、光州、浦項でも行われる方向で準備が進んでいるが、早速反対運動が予告されている。みんなが安心して街を歩けるようになるには、もう少し時間がかかるだろう。
取材・文/植田祐介(韓国語翻訳者、ライター)
写真/島崎ろでぃー
■『2017大邱クィア・カルチャー・フェスティバル〜パレード』
日時:2017年6月24日
参加者数:約1,000人
テーマ:「9回裏 逆転ホームラン〜嫌悪と差別をかっ飛ばせ」
公式サイト:http://cafe.daum.net/life-2van